あのちゃんアイドル時代の苦悩と脱退理由!異端児の軌跡を追う
あの ちゃん アイドルというフレーズが喚起するイメージは、今やかつてのそれとは決定的に異なっている。バラエティ番組で見せる予測不能な言動、独特のウィスパーボイス、あるいはフェスの大型ステージを轟音で揺らすロックスターの姿。彼女の現在地だけを切り取れば、最初から計算され尽くしたサクセスストーリーのように映るかもしれない。だが、その華やかな表舞台の裏には、既存の芸能界のルールを激しく拒絶し、泥水をすするような葛藤を重ねた過去が横たわっている。
深夜番組やSNSのタイムラインで日常的に消費される一方で、かつてあの ちゃん アイドルとして客席へ身を投げ、叫びをあげていた生々しい瞬間を記憶する者たちにとって、今の躍進は単なるラッキーパンチではない。引きこもり生活から突如として飛び込んだライブハウスの熱狂、居場所を探し求めてステージに立ち続けた日々の蓄積が、今ようやく時代の周波数と共鳴したにすぎないのだ。
異色グループ「ゆるめるモ!」で過ごした過酷な下積みの日々
2013年、彼女の物語は「ゆるめるモ!」というニューウェイヴ・ガールズグループへの加入から始まった。学校生活に馴染めず、部屋に閉じこもっていた少女が応募したのは、「辛い時は逃げてもいい」というグループの脱力系コンセプトに引かれたからだった。しかし、現実は甘くない。
当時のライブシーンは、百花繚乱の地下アイドル戦国時代。週末ごとに薄暗いライブハウスを巡り、手売りのチェキ列に立ち、過密な遠征をこなす過酷な労働環境が日常だった。その中でも彼女の存在感は最初から異様を放っていた。ギターノイズが吹き荒れる中で客席にダイブし、時にはマイクを握りつぶすようにしてシャウトする。可愛い笑顔を振りまく王道アイドル像へのアンチテーゼとして、サブカルチャー界隈の熱狂的な支持を集めていった。
あのちゃんのアイドル時代における知られざる脱退理由と過酷な下積みとは?
2019年9月、グループからの電撃脱退が発表された際、ファンの間には大きな動揺が走った。公式には詳細な事情が明かされなかったが、その裏には精神的・肉体的な限界があったことは想像に難くない。毎日のように消費される偶像としての役割、ファンとの過密な接触、そしてグループという枠組みの中で「自分自身」を保つことの難しさが、彼女を極限まで追い詰めていた。
声が出なくなるほどの喉の不調や、ステージ上での過呼吸。自己破壊的なパフォーマンスは、彼女の心の悲鳴でもあった。アイドルという肩書がもたらす安全地帯から抜け出すことは、当時の彼女にとってキャリアの自殺行為にも等しかった。それでも脱退を選んだのは、表現者として息絶えてしまう前に自分を救い出すための、切実な防衛本能だったと言える。この痛切な決断こそが、後のブレイクへと続く不可欠な助走期間となったのだ。現在の快進撃を見据えれば、あの痛みを伴う離脱劇こそが最大の転換点だったとわかる。
「ちゅ、多様性。」が引き起こしたTikTok発のバイラル現象
ソロアーティスト「ano」としての覚醒を決定づけたのは、アニメ『チェンソーマン』のエンディングテーマ「ちゅ、多様性。」だった。元・相対性理論の真部脩一と元・相対性理論のメンバーであり卓越したポップセンスを持つ制作陣が組み上げたサウンドは、緻密にして悪意に満ちたキャッチーさを誇っていた。
この楽曲はTikTokで爆発的な広がりを見せ、サビの「ゲ・ゲ・ゲロ」に合わせたダンス動画が数百万規模で投稿される事態となった。YouTubeに公開されたミュージックビデオの再生数は瞬く間に数千万回を突破。サブカルチャーのアイコンだった彼女が、一気にマス層のポップアイコンへと脱皮した瞬間だった。地下アイドル時代に培った身体性、自らの奇異さをポップにデフォルメして差し出す覚悟が、SNS時代のアルゴリズムを完璧に味方につけた。
幾田りらとの共鳴と映画『デデデデ』が証明した表現力
彼女の進化は音楽の枠組みにとどまらなかった。浅野いにお原作のアニメ映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』での主演声優への抜擢は、批評家たちを唸らせた。声優としての初挑戦でありながら、破滅的な世界を飄々と生きる少女・中川凰蘭(おんたん)の魂を、憑依したかのような演技で表現し切ったのだ。
特筆すべきは、YOASOBIのボーカルとしても知られる幾田りらとのコラボレーションだ。正統派ポップスの申し子である幾田と、オルタナティブの象徴であるあのが交わった主題歌は、日本のポップシーンにおいて極めて鮮烈なコントラストを描き出した。不器用な魂が互いに手を取り合うようなそのハーモニーは、単なる企画モノの枠を超え、映画のテーマ性と見事にシンクロしていた。
メディアの常識を壊したTVerとバラエティでの無二の立ち位置
テレビ番組の制作陣が今、こぞって彼女を起用する理由は明快だ。忖度だらけのひな壇トークにおいて、彼女の存在は唯一無二の劇薬だからである。大御所芸人の前でも一切迎合せず、独特の間と冷徹なツッコミでスタジオの空気を一変させる。
TVerの再生回数ランキングを見れば、彼女が出演したエピソードが常に上位へ食い込んでいる。若年層がリアルタイムのテレビから離れる中で、彼女はネット配信を通じて視聴者を引き戻す強力なコンテンツハブとなっている。テレビの古典的なフォーマットを破壊しながら、同時にそのテレビを救うというアイロニカルな構図が、彼女のタレント価値を押し上げている。
トイズファクトリーから仕掛ける日本の音楽業界の未来図
Mr.ChildrenやBUMP OF CHICKENなどを擁する名門レーベル「トイズファクトリー」と契約を結んだことは、彼女の音楽的野心が本物であることを裏付けている。J-POPの王道を築いてきたレーベルが、サブカルチャーの異端児をメジャーのド真ん中で自由に泳がせているのだ。
画一化されたアイドル像を打ち破り、パンクの精神性を保ったままメインストリームを疾走する姿は、閉塞感の漂う日本の音楽業界に強烈な風穴を開けた。過去の傷跡を隠すことなく、むしろそれを武器に変えて表現を続ける彼女の背中は、居場所のなさを抱える多くのリスナーを今も惹きつけてやまない。かつて地下のステージで光を求めてもがいていた少女は、今や誰にも真似できない自分だけの銀河を築き上げている。 (出典: あの ちゃん アイドル(Yahoo!ニュース))