大相撲の殊勲賞とは?選考基準や賞金額・敢闘賞との違いを徹底解剖
大相撲の本場所が千秋楽を迎える際、土俵の賜杯争いと並んでファンの熱視線を集めるのが「三賞(さんしょう)」の行方です。なかでも、横綱や大関といった絶対的な上位陣を破った力士に贈られるイメージの強い「殊勲賞(しゅくんしょう)」は、土俵の番狂わせを象徴する栄誉として知られています。
しかし、単に横綱を倒して「金星」を挙げれば無条件で手に入るわけではありません。相撲協会の厳格な内規や、千秋楽の取組直前まで緊迫した議論が交わされる選考プロセスの存在をご存じでしょうか。制度の成り立ちから敢闘賞・技能賞との決定的な相違点、そして時にファンの間で議論を呼ぶ「該当者なし」の裏事情まで、相撲報道の現場検証をもとにわかりやすく紐解いていきます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:殊勲賞は大相撲三賞の一つで、横綱・大関の撃破や優勝力士への土付けなど「抜群の手柄」を立てた関脇以下の勝ち越し力士に授与される。
- 要点2:賞金額は1回につき一律200万円(本場所ごとの一時金)。平幕力士が横綱を倒す「金星」による恒久的な力士褒賞金の増額とは仕組みが異なる。
- 要点3:勝ち越し(8勝以上)が絶対条件であり、上位を倒しても負け越せば選考対象から除外されるほか、上位陣の総崩れによって「該当者なし」となる場所も存在する。
【制度の原点】殊勲賞とは何か?言葉の定義と三賞における立ち位置
「殊勲(しゅくん)」という言葉は、古くから「他より際立って優れた手柄」「抜群の勲功」を意味する漢語に由来します。大相撲の歴史においてこの言葉が制度として定着したのは、戦後間もない昭和22年(1947年)11月場所のことでした。戦後の混乱期に大相撲の人気を再興し、優勝争いだけでなく土俵全体に緊張感と活気をもたらす目的で、日本相撲協会と東京相撲記者クラブの主導によって「殊勲賞」「敢闘賞」「技能賞」の三賞が創設された経緯があります。
日本相撲協会の規定上、三賞の対象となるのは「関脇以下の幕内力士」に限定されています。最高位である横綱や、大関といった看板力士はいかに圧倒的な成績を残しても三賞の対象にはなりません。上位陣には「勝って当たり前」という重責が課されている一方、三賞は上位に立ち向かう関脇・小結(三役)および前頭(平幕)の奮闘を称えるために設計された表彰システムだからです。
殊勲賞の最大の骨子は、「その場所の優勝争いや星取りの趨勢を左右するような、強大な相手を打ち破った功績」にあります。優勝争いのトップを走る横綱を土俵下に転がす、あるいは無敗で独走していた上位陣に土を付けるといった、興行のドラマ性を跳ね上げた力士にスポットライトが当てられます。

【徹底比較】殊勲賞・敢闘賞・技能賞の違いと賞金額のリアル
土俵を沸かせた力士に贈られる三賞ですが、それぞれの受賞基準には明確な哲学の違いが反映されています。殊勲賞が「対戦相手の格と番狂わせの度合い」を重視するのに対し、敢闘賞は「精神力と白星の積み上げ」、技能賞は「技術の巧みさと決まり手の多様性」を評価対象とします。
| 賞の名称 | 主な受賞基準・評価ポイント | 賞金額(税抜) | 選考における特徴とハードル |
|---|---|---|---|
| 殊勲賞 | 横綱・大関を破る、優勝力士に黒星をつける、平幕優勝を果たす | 200万円 | 相手の「格」に依存するため、上位陣が不在または総崩れだと選考難航・該当者なしになりやすい。 |
| 敢闘賞 | 最後まで諦めない気迫、初日からの連勝、終盤まで優勝争いに絡む活躍(目安10勝〜11勝以上) | 200万円 | 勝星数が重視され、若手力士や初土俵からのスピード出世力士が最も獲得しやすい登竜門。 |
| 技能賞 | 多彩な決まり手、卓越した立合いの工夫、小兵力士による鮮やかな寄りや投げ | 200万円 | 単なる力任せの相撲では不可。親方衆や相撲解説者の審美眼が問われ、基準が極めて厳格。 |
三賞の賞金額は、それぞれ一律200万円です。複数受賞も認められており、例えば千秋楽に幕内最高優勝を果たした平幕力士が「殊勲賞」と「敢闘賞」をダブル受賞した場合、優勝賞金1,000万円に加えて各200万円、計400万円の三賞賞金が上乗せされます。
ここで多くの相撲ファンが混同しやすいのが「金星(きんせい)」との金銭的違いです。平幕力士が横綱を倒した際に記録される金星は、協会の「力士褒賞金」の基準額が1個につき10円(実質支給額は支給基準に応じて本場所ごとに加算され、現役を引退するまで継続支給)加算される終身積立型のシステムです。一方の殊勲賞は、当該場所の活躍に対して支給される純粋な「一時金」という明確な区別が存在します。
【選考の裏側】三賞選考委員会の実態と「条件付き受賞」のカラクリ
三賞は、場所が終了した後に自動的に計算されて授与されるものではありません。千秋楽の午後、東京・両国国技館(地方場所では各会場)の役員室において「三賞選考委員会」が招集され、厳格な合議と投票によって決定されます。
選考委員会の構成員は、日本相撲協会の審判部長・審判委員(親方衆)と、現場で取材を続ける東京相撲記者クラブの加盟各社代表記者たちです。議論は時に紛糾し、力士の「相撲内容の品位」や「相手力士の調子」まで俎上に載せられます。
三賞選考で頻繁に登場し、中継などでアナウンサーが実況するキーワードが「条件付き受賞」です。千秋楽の取組開始前に会議が行われるため、14日目時点で勝ち越しが決まっていない7勝7敗の力士や、2桁白星に王手をかけている9勝5敗の力士に対し、以下のような条件が付与されます。
「千秋楽の本割で勝利して勝ち越せば(8勝7敗になれば)殊勲賞を授与する」
「千秋楽に勝利して11勝に到達すれば敢闘賞を与える」
この条件を付けられた力士は、千秋楽の土俵において「勝ち越し」と「賞金200万円+三賞受賞の栄誉」の双方を背負って仕切ることになります。当時の特番インタビューや自著・手記で元関脇陣が「千秋楽の仕切り線に立った瞬間、足の裏に冷や汗をかくほどの重圧を感じた」と生の告白を残している通り、条件付きのプレッシャーは力士の心理を極限まで追い詰めます。勝てば喝采の表彰式、敗れれば手ぶらで支度部屋へ引き揚げるという、勝負の世界の非情さが凝縮された瞬間です。

【深層分析】なぜ「該当者なし」が頻発するのか?制度設計の落とし穴
大相撲の星取表を長年観察していると、千秋楽のニュース速報で「殊勲賞は該当者なし」という報を目にすることが珍しくありません。3つの賞のなかでも、殊勲賞は特に「該当者なし」が出現しやすい傾向にあります。これには相撲界特有の構造的要因が絡んでいます。
1. 勝ち越し力士条件(8勝7敗以上)の絶対的な壁
どれほど劇的な金星を挙げ、土俵を揺るがす大歓声を浴びようとも、15日間のトータル成績で7勝8敗以下(負け越し)に終わった場合、日本相撲協会の不文律により三賞の権利は完全に消滅します。序盤で横綱を倒した平幕力士が、中盤以降に上位総当たりの厳しい割(対戦カード)に組まれて連敗し、最終的に負け越して殊勲賞を逃すケースは毎年のように見られます。
2. 上位陣の不調・休場による「権威の不在」
殊勲賞の成立には「打ち倒すべき強大な壁」が必要です。横綱や大関陣が初日から怪我で休場していたり、序盤で総崩れして平幕勢に敗れ去っていたりする場所では、仮に上位に勝った力士が勝ち越したとしても、選考委員会から「相手の調子が悪かっただけで、殊勲とまでは呼べない」と判断されてしまいます。強者が強者として君臨していない土俵では、下剋上の価値そのものが目減りしてしまうというパラドックスが存在します。
3. 幕内最高優勝力士との兼ね合い
平幕力士が幕内最高優勝を果たした場合は、無条件で殊勲賞を受賞するのが近年の定石です。しかし、横綱が全勝や14勝1敗で堂々の優勝を果たした場合、その横綱を倒した唯一の力士が存在しなければ「殊勲」の対象者は土俵上から消えてしまいます。このように、上位の成績動向にダイレクトに左右される点が、自己の白星数だけで評価されやすい敢闘賞との決定的な違いです。
【実態検証】通算最多受賞の金字塔とファンを魅了した「大物喰い」
殊勲賞の歴史を振り返る上で、絶対に外せない伝説的な力士が存在します。歴代最多記録となる通算19回の殊勲賞を受賞した、元関脇・安芸乃島勝昭(現・高田川親方)です。
安芸乃島は横綱から通算16個の金星を奪い、こちらも歴代最多記録を保持しています。千代の富士、旭富士、北勝海、貴乃花、曙といった平成初期の黄金期を彩った大横綱たちと真っ向からぶつかり、立ち合いの鋭い出足と左ハズ押しで幾度となく土俵下に転がしました。
報道関係者の証言や当時の相撲誌の記録によると、安芸乃島は「横綱と対戦するときほど、相手の呼吸や重心の乱れが手にとるように見えた」と語っています。まさに「上位キラー」の真骨頂であり、彼が獲得した19回の殊勲賞は、単なる番狂わせではなく、卓越した勝負師としての技術と気迫がもたらした金字塔と言えます。
ネット上の相撲コミュニティ(SNSや専門掲示板)でも、「安芸乃島のような絶対的キラーがいなくなると場所が引き締まらない」「殊勲賞の重みは、強い横綱がいてこそ引き立つ」というファンの声が根強く交わされています。ファンにとっても、殊勲賞は単なる数字以上の「大相撲の醍醐味であるカタルシス」を測るバロメーターとして愛されているのです。

【プロの結論】観戦が10倍面白くなる「受賞ボーダーライン」の見極め方
大相撲中継を観戦する際、12日目〜13日目あたりから「今場所の殊勲賞は誰の手に行くのか」を予測できるようになると、土俵の面白さは格段に跳ね上がります。選考委員会の心理と過去の受賞パターンから導き出される判断基準は以下の通りです。
◆ 殊勲賞をほぼ手中に収める力士の条件
- 平幕で幕内最高優勝を果たした力士(文句なしの受賞)
- その場所で優勝した力士に唯一土を付け、自身も2桁勝利(10勝以上)を挙げた力士
- 1場所で2人以上の横綱・大関を破り、8勝以上で勝ち越した三役・平幕力士
◆ 活躍しても受賞を見送られやすい(慎重になるべき)ケース
- 横綱を撃破して金星を挙げたが、8勝7敗のスレスレ勝ち越しにとどまった場合(相撲内容が評価されないと見送りになりやすい)
- 対戦した横綱・大関がすでに怪我でボロボロになっており、翌日から休場してしまった場合
- 勝星自体は11勝など好成績だが、上位総当たりではなく平幕下位での星稼ぎが中心だった場合(この場合は敢闘賞へ回されるのが通例)
このように、「誰に勝ったか(相手の権威)」と「どう勝ったか(内容と星勘定)」の両軸が完璧に交差した瞬間にのみ、殊勲賞の扉が開かれます。
【殊勲賞とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:大関や横綱が素晴らしい相撲を取っても殊勲賞をもらえないのはなぜ?
A1:日本相撲協会の三賞内規において、対象が「関脇以下の幕内力士」と明確に定められているためです。最高位である横綱と大関は、番付の頂点として勝つことが義務付けられた立場であり、表彰の対象ではなく「他力士に目標とされる側」として位置づけられています。
Q2:横綱に勝ったのに殊勲賞をもらえなかった力士がいるのはなぜ?
A2:主な理由は2点あります。1つ目は、その力士が場所全体で7勝8敗以下に終わり「負け越した」場合です(勝ち越しが受賞の絶対条件)。2つ目は、横綱を破ったものの他の相撲内容が振るわず、選考委員会で過半数の賛成票を得られなかった場合です。
Q3:1場所で複数の三賞を同時に受賞することはできる?
A3:可能です。極めて優秀な成績を残した場合、例えば「殊勲賞と技能賞」「殊勲賞と敢闘賞」を同時受賞するケースがあります。極めて稀ですが、平幕力士がハイレベルな内容で初優勝を果たした際などに「殊勲・敢闘・技能」の三賞トリプル受賞を達成した歴史的記録も存在します。その場合、賞金もそれぞれの賞から満額(200万円×受賞数)支給されます。
まとめ:土俵のドラマをより深く味わうための視点
大相撲における「殊勲賞」は、単なる成績優秀者へのボーナスではありません。絶対的な権威と階級社会が色濃く残る大相撲の土俵において、下位の者が己の肉体と知略一つで上位の牙城を崩した証左であり、番狂わせが持つ最高の美学を称える賞です。
「勝ち越し」という絶対のハードル、対戦相手の調子や場所の趨勢まで問われるシビアな選考プロセス、そして千秋楽の一番に生活と名誉を懸ける力士たちの心理戦。これらを知った上で本場所の終盤戦を眺めると、結びの一番に至る取組一つひとつに込められたドラマの解像度が劇的に上がります。千秋楽の午後、三賞選考委員会の結果がアナウンスされた瞬間、ぜひ力士の星取表とその足跡に思いを馳せてみてください。 (出典: 殊勲賞 と は(Yahoo!ニュース))